「気をつけて」だけに頼らない。子どもの歯ブラシ事故をデザインから減らす

子どもが歯ブラシを口にしたまま転倒すると、歯ブラシがのどの奥に当たり、大きなけがにつながることがあります。
「歩きながら磨かないようにする」
「保護者が目を離さないようにする」
もちろん、注意することは大切です。
しかし、事故が繰り返し起きているのであれば、使う人の注意だけに頼るのではなく、製品そのものを変えることで被害を小さくできないか。
そんな問いから、力が加わるとネックやボディが曲がる「まがるハブラシ」の開発が始まりました。
PROJECT DATA
製品名
まがるハブラシ
開発内容
商品企画/プロダクトデザイン/構造検討/試作/検証/量産化支援
クライアント 合資会社三和歯ブラシ工業所/株式会社DHL
デザイン・設計 有限会社アイ・シー・アイデザイン研究所
始まりは、ひとつのニュースでした
開発のきっかけは、子どもの歯ブラシによるのど突き事故を伝えるニュースでした。
ニュースでは、保護者に対して注意を呼びかけていました。けれども私たちは、事故が何度も起きているにもかかわらず、使う人に注意を求めるだけでよいのだろうか、と疑問を持ちました。
子どもは、予想どおりには動きません。
大人が目を離した一瞬に歩き出したり、歯ブラシを持ったまま転んだりすることがあります。
子どもの行動を完全に止めることはできなくても、事故が起きたときの衝撃を、製品の構造によって小さくすることはできるかもしれない。
そこで、歯ブラシの形、素材、構造そのものを見直す開発が始まりました。
安全なだけでは、歯ブラシとして成立しない
事故の衝撃をやわらげるためには、歯ブラシを柔らかくすればよい。
考え方だけなら単純に見えます。
しかし、柔らかすぎると、歯をきちんと磨くことができません。反対に硬すぎれば、転倒した際の衝撃を十分に逃がすことができません。
安全性を高めながら、歯ブラシとしての使いやすさを失わない。
この二つを両立させることが、開発の大きな課題でした。
蛇腹状に曲がるもの、柄全体が柔らかいもの、持ち手の太さや形を変えたものなど、さまざまな試作品を制作しました。

[試作品の一部]
実際に触り、曲げ、磨きながら、一つずつ問題を確認していきました。
目立つ形をつくることが目的ではありません。
必要なときには曲がり、通常の歯磨きでは安定して使えること。その境界を、素材と構造によってつくることを目指しました。
「曲がる」ことで、二つの問題が解決した
まがるハブラシには、曲がる機能を利用した二つの役割があります。
1.転倒時の衝撃をやわらげる
強い力が加わると、歯ブラシのネックやボディが曲がり、衝撃を逃がします。
また、口の中で折れて一部が残ることを避けるため、「折れないこと」を重要な条件として検討しました。
単に柔らかくするのではなく、必要な方向へ曲がりながら、歯ブラシとして使える強さを保つ構造を追求しています。
2.強すぎる歯磨きの力を見えるようにする
歯や歯ぐきを傷つけずに磨くためには、強く押しつけすぎないことが大切です。
そこで、適切な歯磨き圧の目安とされる150~200gを踏まえ、一定以上の力が加わるとネックが曲がるように設計しました。
これは、歯科医や歯科衛生士の皆さんへのヒアリングからでてきた「気づき」です。
歯ブラシが曲がることで、力を入れすぎていることを、使う人が目で確認できます。
安全のための構造が、正しい力加減を知るための目印にもなりました。
試作品が教えてくれた新たな気づき
開発当時、私の子どもは仕上げ磨きをとても嫌がっていました。私は、子どもは歯磨きそのものが嫌いなのだと思っていました。
ところが、試作品を使って仕上げ磨きをすると、歯ブラシのネックが大きく曲がりました。そのとき初めて、自分が思っていた以上に強い力で磨いていたことに気づきました。
嫌がっていたのではなく、痛かった。
まだ言葉でうまく伝えられない子どもは、顔を背けたり、逃げたり、身体を動かしたりすることで気持ちを表します。それを大人は「歯磨きが嫌いなのだ」と受け取ってしまうことがあります。
試作品を実際の生活で使ったことで、事故の予防とは別の、毎日の歯磨きに隠れていた問題が見えてきました。
安全のためにつくった「曲がる」という機能は、親に力加減を伝え、親子の歯磨き時間を少しやさしくする機能にもなったのです。
試作し、確かめ、専門家とともに判断する
子どもの安全に関わる商品は、デザイナーの感覚だけで決めることはできません。
産業技術総合研究所の研究者や歯科関係者、歯ブラシ製造の専門家と連携しながら、検証方法から検討しました。
一つの条件だけを見るのではなく、複数の条件を照らし合わせながら仕様を決めるところから取り組みました。
デザインとは、見た目を整えるだけの作業ではありません。
使う人の行動、素材の性質、製造方法、安全性、使いやすさを整理し、相反する条件の間に、実現できる答えを見つける仕事だと考えています。
特別な道具に見せないというデザイン

安全性を高めるために、大きなストッパーを付けたり、一般的な歯ブラシとは異なる形にしたりする方法もあります。
しかし、子どもには、大人と同じものを使いたいという気持ちがあります。
安全のための商品であっても、子どもが「自分の歯ブラシ」として自然に手に取れなければ、毎日の習慣にはつながりません。
そこで、まがるハブラシは、一般的な歯ブラシに近い姿を保ちながら、素材と内部の構造によって安全性を高めています。
安全のために使い方を大きく変えるのではなく、日常の道具の中に安全を組み込む。
それが、この商品のデザインの考え方です。
この開発で、私たちが行ったこと
まがるハブラシの開発では、製品の外観だけでなく、商品として成立するまでの一連の工程に関わりました。
社会で起きている事故や課題の把握
最初から、正解の形が見えていたわけではありません。
つくって、使って、確かめる。
そこで見つかった問題を、次の試作品に反映する。
この繰り返しによって、安全性と使いやすさを両立する形に近づけていきました。
社会の課題に、商品という答えをつくる
まがるハブラシは、2015年度グッドデザイン賞、キッズデザイン賞奨励賞を受賞しました。
その後、子どもの歯ブラシ事故に対する社会的な関心が高まり、のど突き防止対策を施した歯ブラシも増えています。
私たちが目指したのは、一時的に注目を集める商品ではありません。
必要とする人がいる限り、長く使い続けられる選択肢を社会に残すことです。
暮らしの中にある「仕方がない」や「気をつけるしかない」を、商品や仕組みによって変えられないか。
アイ・シー・アイデザイン研究所は、そこから商品開発を考えます。
受賞・認定
- 2015年度 グッドデザイン賞
- 2015年度 キッズデザイン賞 奨励賞〈キッズデザイン協議会会長賞〉
- 大阪製ブランド クリエイティブワーク部門 ロールモデル
- 特許取得
メディア紹介多数
商品開発の課題を、一緒に整理します
「技術や素材はあるが、使う人に届く形にできていない」
「安全性、使いやすさ、製造条件をまとめて検討したい」
まだ具体的な形が決まっていない段階でも、ご相談いただけます。
使う人、使用場面、技術、製造方法を整理しながら、実現できる商品づくりをご一緒します。








